【BLファンタジー】双剣の英雄 第5話
第5話 こうしてはじまる物語
「とりあえず、名前はわかったな。シュライク」
「……そうだね」
騒ぎすぎてぐったりした僕は、カナエの言葉にため息を吐く。
「長い名前だからシュラでいいよ。カナエ」
「わかった」
疲れ切った僕の言葉にカナエは頷いた。
「しかし、まさか人間じゃ無かったなんて、ほんとうに予想外だよ……」
「俺には精霊が自分を人間と思い込んでいたところが予想外だったがな」
カナエは呆れたように僕を見た。
「そういわれても……僕は精霊というものがどんな物なのか知らないし」
「自分のことなのにか?」
「うん」
自分の事なのに何もわからないというのは、結構辛い物なのだなと大きく息を吐き出す。
「ねえ、カナエ」
「なんだ」
「精霊のこと、教えてくれない?」
「……たいしたことは教えられないぞ」
「いいよ。なにもわからないよりはマシだから」
「……」
カナエは静かに僕を見つめる。そして、少し躊躇うように話し始めた。
「人間にとっての精霊は、言わば世界の意思の欠片だと言われている。精霊には、善も無く、悪も無く、個さえ曖昧で、ただひたすらに世の観測者でありつづけ、そして求める者の呼び声に答えるモノだと。」
「求める者の声?」
「この世界における魔法のほとんどは全て精霊によって引き起こされているとされている。契約と詠唱によって、精霊の力を現出させているのだと。契約と詠唱こそ、精霊に唯一呼びかけることができる手段だ。この手段が求める者の声だと言われているな。」
「……」
「だけど、シュラ。お前は違う。お前は人という種族に似過ぎている。通常、個が希薄な精霊に、喜怒哀楽があるというのは……」
「……おかしい?」
僕がカナエに尋ねると、カナエは肯定するかのように目を伏せた。
「そっか」
「あと、触れられる肉体を持っているというのも、おかしな話なんだ。精霊は普通は目に見えず触れることもできないものだから」
「うん」
そうか。僕は異質なのか。そう思うと心が沈んだ。
このなんとも言えない気持ちも、きっと精霊としてはおかしいのだろう。
では、この僕という個は一体なんなのだろう? がらんどうの記憶が胸をしめつける。世界でひとりぼっちになったかのような気分だ。
僕はうつむき唇を噛みしめた。しばらくすると、カナエが僕を呼んだ。
「シュラ」
カナエの声がする。
「シュラ、勘違いするな。これは一般論なだけだ。世界中を探せば、お前のような精霊も存在するのかも知れない。一時の感情に左右されるな。」
僕は俯いていた顔をあげるとカナエがこちらを真摯に見つめていた。
「――おまえは、おまえだ」
「……うん」
カナエは言葉を選ぶように僕を励ます。だから、僕は笑うことにした。平気だよ。大丈夫って気持ちを込めて。
だって、カナエは無表情だったけれど、僕よりももっと痛そうな顔をしていたから。
僕にはカナエの考えていることはわからない。けれど、僕を真剣に心配してくれていると僕は感じた。
なら、それだけでいい。たとえ僕が異端だったとしても。
「わかった」
僕がそういうと、カナエは安心したように息をついた。
「だけど、どうしようか? 僕がそんなに『珍しい精霊』なら、他の人に珍獣として扱われそう……」
気を取り直して、すこし冗談めかすように僕はカナエにそう言った。
するとカナエは考え込んだ様子でしばらく黙る。
「珍獣扱い……で済めばいいが。正直、他の人間にシュラの事を知られるとやっかいなことになるかも知れない」
「具体的には」
「良くて軟禁。悪くて――」
「あ、いいです。言わなくて。想像するのが怖い」
「賢明だな」
僕は他の人に捕まった未来を思い描くと身震いした。実験動物扱いとかされたらどうしよう。ほんとに。
「じゃあ、僕はあまり人に会わないほうがいいんだね?」
「まあ、極端に言えばそうかもしれないが、多少は会ってもかまわないと思う。要は精霊と気づかれなければいいんだ」
「でも、万が一ばれたらどうしよう」
「そうだな……」
カナエはすこし考えるそぶりを見せる。そして、
「怪しまれないぐらいに、この世の中の常識を勉強して。もしも捕まっても、逃げられるよう鍛えればいいんじゃないか?」
と、結論を出した。
「幸い、この近くには中規模の町がある。普段は拠点としてここで常識を学んだり、鍛えたり、生活をして、必要になれば町に移動したり、旅に出ればいい。この森はすこし特殊だからな。人も滅多に近づかないだろう……」
「僕はなにがなんだかさっぱりだから、カナエに任せるよ」
そして、僕らのある意味単調で、おかしな生活は幕をあけることになるのだ。
「とりあえず、名前はわかったな。シュライク」
「……そうだね」
騒ぎすぎてぐったりした僕は、カナエの言葉にため息を吐く。
「長い名前だからシュラでいいよ。カナエ」
「わかった」
疲れ切った僕の言葉にカナエは頷いた。
「しかし、まさか人間じゃ無かったなんて、ほんとうに予想外だよ……」
「俺には精霊が自分を人間と思い込んでいたところが予想外だったがな」
カナエは呆れたように僕を見た。
「そういわれても……僕は精霊というものがどんな物なのか知らないし」
「自分のことなのにか?」
「うん」
自分の事なのに何もわからないというのは、結構辛い物なのだなと大きく息を吐き出す。
「ねえ、カナエ」
「なんだ」
「精霊のこと、教えてくれない?」
「……たいしたことは教えられないぞ」
「いいよ。なにもわからないよりはマシだから」
「……」
カナエは静かに僕を見つめる。そして、少し躊躇うように話し始めた。
「人間にとっての精霊は、言わば世界の意思の欠片だと言われている。精霊には、善も無く、悪も無く、個さえ曖昧で、ただひたすらに世の観測者でありつづけ、そして求める者の呼び声に答えるモノだと。」
「求める者の声?」
「この世界における魔法のほとんどは全て精霊によって引き起こされているとされている。契約と詠唱によって、精霊の力を現出させているのだと。契約と詠唱こそ、精霊に唯一呼びかけることができる手段だ。この手段が求める者の声だと言われているな。」
「……」
「だけど、シュラ。お前は違う。お前は人という種族に似過ぎている。通常、個が希薄な精霊に、喜怒哀楽があるというのは……」
「……おかしい?」
僕がカナエに尋ねると、カナエは肯定するかのように目を伏せた。
「そっか」
「あと、触れられる肉体を持っているというのも、おかしな話なんだ。精霊は普通は目に見えず触れることもできないものだから」
「うん」
そうか。僕は異質なのか。そう思うと心が沈んだ。
このなんとも言えない気持ちも、きっと精霊としてはおかしいのだろう。
では、この僕という個は一体なんなのだろう? がらんどうの記憶が胸をしめつける。世界でひとりぼっちになったかのような気分だ。
僕はうつむき唇を噛みしめた。しばらくすると、カナエが僕を呼んだ。
「シュラ」
カナエの声がする。
「シュラ、勘違いするな。これは一般論なだけだ。世界中を探せば、お前のような精霊も存在するのかも知れない。一時の感情に左右されるな。」
僕は俯いていた顔をあげるとカナエがこちらを真摯に見つめていた。
「――おまえは、おまえだ」
「……うん」
カナエは言葉を選ぶように僕を励ます。だから、僕は笑うことにした。平気だよ。大丈夫って気持ちを込めて。
だって、カナエは無表情だったけれど、僕よりももっと痛そうな顔をしていたから。
僕にはカナエの考えていることはわからない。けれど、僕を真剣に心配してくれていると僕は感じた。
なら、それだけでいい。たとえ僕が異端だったとしても。
「わかった」
僕がそういうと、カナエは安心したように息をついた。
「だけど、どうしようか? 僕がそんなに『珍しい精霊』なら、他の人に珍獣として扱われそう……」
気を取り直して、すこし冗談めかすように僕はカナエにそう言った。
するとカナエは考え込んだ様子でしばらく黙る。
「珍獣扱い……で済めばいいが。正直、他の人間にシュラの事を知られるとやっかいなことになるかも知れない」
「具体的には」
「良くて軟禁。悪くて――」
「あ、いいです。言わなくて。想像するのが怖い」
「賢明だな」
僕は他の人に捕まった未来を思い描くと身震いした。実験動物扱いとかされたらどうしよう。ほんとに。
「じゃあ、僕はあまり人に会わないほうがいいんだね?」
「まあ、極端に言えばそうかもしれないが、多少は会ってもかまわないと思う。要は精霊と気づかれなければいいんだ」
「でも、万が一ばれたらどうしよう」
「そうだな……」
カナエはすこし考えるそぶりを見せる。そして、
「怪しまれないぐらいに、この世の中の常識を勉強して。もしも捕まっても、逃げられるよう鍛えればいいんじゃないか?」
と、結論を出した。
「幸い、この近くには中規模の町がある。普段は拠点としてここで常識を学んだり、鍛えたり、生活をして、必要になれば町に移動したり、旅に出ればいい。この森はすこし特殊だからな。人も滅多に近づかないだろう……」
「僕はなにがなんだかさっぱりだから、カナエに任せるよ」
そして、僕らのある意味単調で、おかしな生活は幕をあけることになるのだ。
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