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水底のソフィア

オリジナルファンタジーBL小説を連載中です。主人公受けです。

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【BLファンタジー】双剣の英雄 第9話

 第9話 不器用な夜

 木作りのドアが静かに閉まる音がして、ふいに正気に戻った僕の目に映ったのは、窓から差し込む傾き始めた太陽の光だ。
 部屋は少々薄暗く、窓を彩るように緑のカーテンがカーテンレールにつるされている。扉から正面には、大人2人が一緒に寝転んでも平気だろうと思えるベッドが1つ、ベッドサイドには小さな机が1つ、そこには夜の明かりにするのだろう、小さな燭台と蝋燭があった。
 広くも無く狭くも無い室内は、窓が閉まっているせいかすこし閉塞感を感じられる。
 すると、部屋を観察する僕の隣からカナエがベッド際の窓のほうへと向かい、窓を開けはじめた。窓が開くとそこから草の香りと土の香りが風に乗って僕の髪を揺らす。
 と、そこでやっと僕の羞恥心が収まってきたと共に、また好奇心が復活し、僕は忙しなく視線を動かして、周囲を観察しながら、気がついたことをカナエに報告した。
「カナエ、ベッドひとつしか無いけど……」
「ダブルだからな」
「さっきの女の人も言ってたけど、ダブル?」
「ダブルベッド。シングルベッド2部屋より、ダブル1部屋の方が経費が安かったから、そうした」
「あー……」
 僕はなるほどと納得した。カナエは慣れた様子で、部屋の備品を確認している。
「今夜は一緒に寝ることになるが、まあ、別に問題ないだろう?」
「まあ、たしかに……節約になるんだったらいいかぁ」
 僕がそう言うと、カナエはこれからの予定を話し始めた。
「今日は、とりあえず、俺もこの宿に泊まる。今、目を離したら、とんでもない事になりそうだからな」
「そんなことは――」
「おまえ、俺がいなくても、余計なことは言わないか?」
「うっ……」
 カナエは僕がまだ、他の人と話すことに自信がないことを気づいているらしい。『1人で大丈夫』と言えない僕の、痛い所を突いてくる。
「わかったよ」
 僕が了承すると、カナエは備品を確認する手を止めて、ベッドに向かい腰をかけた。
 僕もカナエの傍に座る。
「とりあえず、今日はこの宿屋で必要になる一通りの事を教える。明日は、俺が町で必要なものを調達してくるから、シュラはここで待機だ」
「ん、わかった」
 僕は頷くと、不意に気になっていた事が口にでた。
「――そういえば、さっき女の人が言ってたけど、カナエって騎士だったの? 月読会って言ってたけど」
「……ああ、その話か。厳密に言うと、月読会にいる騎士と呼ばれている者は本当の騎士じゃ無い。貴族じゃないからな……。どちらかというと私設傭兵団に近い。が、まあやっていることは騎士に似ているから、よく騎士様と言われるが。さっきの女性は俺の鎧を見て判断したんだろう。月読会の戦う者はこの鎧と同じデザインの鎧を着用している事が多い」
 カナエの白銀の鎧は、月読会の戦士の象徴なのだという。
 なるほど、それでさっきの女性はカナエを騎士様ってよんだのか。僕は納得した。
「あと、月読会って?」
「月神を信仰している拝一神教で、月神の奇跡と教えを信奉している団体だ。ここ200年で爆発的に広まった比較的新しい宗教なんだが、大陸全土にわたって信者が多い」
 カナエはそう答えると目を伏せる。その表情は相変わらず無表情で僕にはカナエの感情が読めなかった。
 そういえば、カナエのこと何も聞いてない……。カナエは帰る場所がないと言っていたけれど、月読会の人間なら、本来帰るべき場所があるんじゃないのだろうか? もしかして、僕のことを気にして、帰る場所がないと言ったんだろうか?
 それならば、これだけは聞かなければならないだろうと、意を決して僕は口を開く。
「カナエは、さ。……帰らなくていいの? その、月読会に」
「……」
「僕にはよくわからないけど、仲間とか、家族とか、待っている人がいるんじゃないの?」
 僕はカナエを見つめて言った。カナエが僕の方をゆっくりと見る。その目はひどく無機質でまるでガラスのようだった。カナエの感情が読めない。そっと、カナエの手が僕の頬に添えられる。自然とカナエを正面から見つめる形になった。
 僕はどこかにカナエの感情がないか探す。けれど、エメラルドグリーンの瞳は何も答えることはなかった。
「……シュラは、なにも気にしなくていい」
 カナエはぽつりと呟く。僕はなんだかカナエに拒絶された気分になった。まるで、聞いてはいけないことを聞いてしまったような……。
「カナ――」
 僕がカナエの名を呼ぼうとしたその時だった。
 軽いノックの音と共に扉の向こうから女性の声が聞こえた。
「こんにちは。湯をお持ちしました。」
 カナエは僕の頬から手を離すと、扉の方へと向かって歩いて行った。
 カナエの手の温かさとはうらはらに、まるで作り物のような無感情な瞳を思い出すと、僕はもう何も言えなかった。

 その後、僕とカナエは交代で身を清めたり、食堂にてカナエに簡単な食事の作法とかを教わったりしたが、僕はなんだか先ほどのカナエとのやりとりから、始終上の空だった。けれど、カナエは何も言わずにいつもの無表情のままで話している。
 なんだろう。この寄る辺のない気持ちはと僕は思う。――この気持ちに名前をつけるとしたら、不安と言うのかも知れない。
 そんなことを考えているうちに、夜になって、ふたりで同じベッドにはいって、僕は窓から見える星を数えながら寝転がっていると、カナエがぽつりと呟いた。
「寒い」
 そういうと、体を僕の方へ寄せ、腕を伸ばし、まるで壊れ物を扱うように僕を抱きしめた。すると自然と距離が近くなって、カナエと向き合う体制になる。どうしてか縋られているようだと思った。
「寒いの?」
 伏せられた麻色のまつげを見つめて尋ねると。
「ああ、寒い」
 とカナエは答えた。
 今、僕たちがいるところは気温の低い洞くつじゃない。僕からしたら、ほどほどに暖かい場所でも、カナエは『寒い』という。
 それはどういう意味を持っているのだろう? と、僕は思った。
「今は?」
 僕は尋ねるとカナエは少し困った顔をした、――ような気がした。相変わらず無表情で何を考えているのか読みにくい。
「シュラを抱きしめると、暖かい気がする。それから、……そうだな。安心する気がする」
 『気がする』、ねぇ……。
 そっと、僕はカナエに寄り添い、腕をカナエの胸にそえる。
 それで、すこしカナエの『寒さ』が消える『気がする』なら、安いもんだと思う。
「さっき、ずいぶんと上の空だった」
 すこし、責められている気がするのは気のせいだろう。たぶん。
「うん……すこし、考え事してた」
「そうか」
 ふっとカナエは息を吐き、目を閉じた。
「ね。僕もさっきすこし『寒い』感じがしたけど。今は『暖かい』よ」
 そして、僕も瞼を下ろし、眠りにつくことにした。
 カナエの僕の抱く腕にすこし力がはいった気がした。

 次の日、カナエは町に行くといい、僕は半日宿駅に1人で待機することになった。
 宿屋の入り口で、僕はカナエを見送る。
「では、俺は町に必要な物を買いに行く。シュラ、くれぐれも目立つなよ」
「わかってるって」
 もうすっかり、僕もいつもの調子だ。
 昨日の夜で、僕の上の空は解決したようだ。一度、眠ったこともよかったのかもしれない。
「じゃ、いってらっしゃい」
「ああ」
 そういうとカナエは町へと出発した。
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