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水底のソフィア

オリジナルファンタジーBL小説を連載中です。主人公受けです。

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【BLファンタジー】双剣の英雄 第8話

第8話 はじめての宿駅

「わぁ……。ここが宿駅かぁ」
 僕は中規模の広場の真ん中で感心したように呟いた。
 目の前には僕の等身大ぐらいの透明な鉱石が美しくカットされ設置されている。そのクリスタルを中心にした広場の周囲には3軒の比較的大きいと思われる木造の建物が囲むように立ち並んでいた。靴底で踏みしめたのは、カラフルなモザイクのタイル。タイルは規則的な模様を作り、広場を埋め尽くしている。
 僕はドキドキしながら、周囲を見渡し。知的好奇心を満たす。
 なにしろ、なにもかもが物珍しく感じて仕方ないのだ。多少は気分が高揚してしまうのは仕方ないと思ってほしい。
 そして、僕が一番興味を持ったのは、やはり、まばらに行き交う人々。
 草原を裸にして土をならした街道に沿って、人がぽつりぽつりと歩いているのが見える。時折馬車の姿も見えたりして、僕は興味深いと視線を忙しなく動かしていた。
 実は、遠目でカナエ以外の人を初めて見た時に、僕は興奮気味にはやく街道に行こうとカナエを引っ張り、カナエに「落ち着け、目立たないようにするんだろう?」と注意された為、現在は視線を動かすだけにとどめているが、やはり、高揚する気分は隠せなかった。
「カナエ……! この綺麗な大きな鉱石って何?」
 先ほどから僕は食いつくように、カナエに質問しっぱなしだ。
 カナエも僕が興奮するのは仕方ないと思ったのか、最初は注意していたものの、今はもう何も言わず、隣で僕の質問に答えてくれる。今は広場の中央の目立つ鉱石を指さして、僕はカナエの服の袖口を引っ張っていた。
「……これは結界石だ。一定距離、――そうだな、この宿駅を覆うくらいの範囲を透明な壁のようなものを作り出して、人にとって無害なものしか通さないように出来ている。簡単に言うとモンスターを追い払う効果をもっていると言えばいいか」
「わあ、そんなすごいものなんだ」
「まあ、宿駅や町、村には必ず1つは設置されているものだな。珍しいものでは無いけれど拠点を作るには重要なものだ。だが、最近は結界石を生成出来る人材が減ってきているのが問題になってる」
「へ~、綺麗なだけじゃないんだ」
 じいっと鉱石を見つめ、観察していたが、途中でカナエに声をかけられる。
「そろそろ行くぞ。目立つ」
 と、素っ気なく言って、僕の手を握って3軒ある建物の1つに向かって僕を引っ張って歩いた。
 すこし強引な方法に僕は足をとられそうになりながらもついて行く。
「どこにいくの?」
「宿屋へいく」

 カナエに引きずられるように連れてこられたのは、木造の赤い塗料で塗られたレンガ屋根の建物だった。
 3軒ある建物の中で一番大きいんじゃ無いだろうか? なかなか大きな建物特有の重さのある趣の建物だと思う。
 看板には文字で夕暮れの草原亭と書かれている。
 あ、今気が付いたけど、僕、生まれたばかりなのに文字がわかるんだと目をすこし見開いた。
 どういう原理かわからないけれど、精霊にはある一定の知識がそなわるんだろうか?と疑問に思いつつ、カナエと連れだって宿屋の中に入った。
 中は質素だが落ち着いていて清潔、窓際には可憐な花が花びんに生けられている。
 正面にはすこし古ぼけたカウンターがあり、すこし小太りな40代くらいの女性が忙しそうにカウンターの傍を掃除をしていた。
 軽やかなドアベルが鳴り、扉が閉まると女性はカナエと僕に気が付いたのか、顔をこちらに向けた。
「あら、いらっしゃい、泊まりかい?」
 女性はそう言うといったん掃除道具を置いて、カウンターと歩み寄る。
「1泊……いや、2泊だな。2人、食事と湯を付けて宿泊したい」
 カナエは淡々と話を進めると、女性はカナエと僕に目を向けて好意的に微笑んだ。
 女性は頷くと黒板のような小さな板にチョークらしきもので何かを書き込んでいく。
「2人だね。……ベッドはシングル2つでいいかい?」
「かまわない」
 カナエと女性はどんどん話をすすめる。
 話によると、食事はカウンター右に食堂があり、朝と夕に食事を提供しているらしい。
 湯はそのままの意味で、たらいに一杯分の身を清めるためのお湯を1日1回部屋まで運んでくれるらしい。
「それにしても、ずいぶん立派な身なりだこと。商家の坊ちゃんかい? 護衛に月読会の騎士様なんて、豪勢だねぇ」
 ニコニコと快活に女性は笑う。
 ……月読会? またよくわからない単語だ。
 騎士はなんとなくわかる。――っていうか、カナエって騎士だったんだ。知らなかった。
 疑問を今すぐカナエにぶつけたい。が、僕は何も言わずに曖昧に微笑んだ。こういう時、喋るとなんだか墓穴を掘るような気がする。
 カナエは表情を変えず、こちらを見ていたが、なんだか「目立つな」と言われている気がした。……わかってるよ。
 何も言わずただ微笑むだけの僕に女性は、勝手に勘違いしたようだ。
「ああ!……なるほど、お忍びかい」と、言うと、流れるような慣れた手つきで鍵をカナエに差し出した。すると、女性はなにかに気づいたように微笑ましそうに笑った。
「あらあら、仲がいいねぇ」
 僕はなぜそんなことを言われたのかと目を瞬かせる。そして、女性の視線が僕とカナエの丁度間くらいにあるのに気が付いた。
 あ、カナエと手をつないだままだった……。
「それだけ仲がいいなら、いっそダブルにしたほうが安くつくよ。騎士様」
 僕はなんだかとても恥ずかしいことを指摘された気がして、赤面する。
 体温が上昇して顔が熱くなったことを自覚して、さらに恥ずかしくなった。
 カナエは相変わらず無表情で「俺はどちらでもいい」と、答え、こちらを見て「どうする?」と言った。
 知らないよ! 大体、ダブルってなんのことだよ!!?
 と内心叫びつつ、必死に何も言わずに口をつぐんだ。
 そして……。
 気が付いたら、広めなベッド1つが置いてある部屋にカナエにエスコート??されていた。
 僕は恥ずかしさのあまり、カナエと女性とのやりとりはそれ以降覚えてない。
 とりあえず、部屋に入ったとたんに僕の正気が戻ったことは確かだった。
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