【BLファンタジー】双剣の英雄 第6話
第6話 朝のひととき
「ん……」
瞼を開くと薄暗い洞くつの天井が見えた。奥にあるわき水の湧く音が覚醒を促していく。
ああ、あの後、夜になったから、いったん眠ったんだっけ?
ゴツゴツした岩の上に横になって眠っていたせいで動かすと非常に体が痛い。
仰向けになっていた僕はとりあえずいまの体制を変えようと、ゆっくりと身を横に倒そうとしたところで驚く。
「っ!……なんだ、カナエかぁ」
正面の至近距離にカナエの顔が見えて驚いたのだ。昨日カナエの隣で眠ったことを忘れてた。
……でも、こんなに近かったっけ? そんなことをおもいつつ、寝ぼけた頭でカナエの顔を観察する。
うわ~まつげ長いなぁ。ほんと端正な顔してるし、同性ながら、感心するなぁ。
色々考えつつカナエの顔をぼんやりと見つめていると、カナエの瞼が震えた。
ゆっくりと瞼が開いていく。エメラルドグリーンの瞳が洞くつの暗がりの中輝いていた。
どうやらカナエも目を覚ましたらしい。
「……」
無言で僕たちは見つめ合う。
そしてたっぷり10秒たったころ。カナエが口を開いた。
「寒い」
そういうと、突然カナエが動き出し、僕の身を自分の方へ寄せて、抱え込むように抱きしめた。
そうなると僕の顔は自然とカナエの胸元へ移動する。
カナエは寝る前に鎧を脱いでいたので、いまはごつごつとした感触は無く、あるのは鎧の下に着ていた黒い衣服の柔らかさと、暖かな人肌の温度と、微かにかおる昨日の血の残り香、そして、命を刻む心臓の音だ。
あったかい……。
血の流れる音と心臓の独特のリズムに安心すると共に、僕の意識は急速に覚醒する。
……あれ? これってなんだかすこしおかしくない? いくら寒いって言っても、なんだか近すぎない?
――いや、僕はいろんな意味でこの世界に無知だから、よくわかんないけど。
これって、そもそもカナエ寝ぼけてる?
あ、でも、そんなことより、光が入ってきてるって事は、もう朝だから、カナエ起こさなきゃ。
僕はカナエの腕の中でそんなことを考えると、カナエに声をかけた。
「カナエ~。起きて。朝だよ~」
声をかけたタイミングからすこし遅れて、カナエは反応を示した。
ゆっくりとした動作で、かわらず無表情のカナエが腕の中の僕を確認する。
「あ、おはよ」
僕が朝の挨拶をカナエにすると、カナエは少し考えるような様子を見せて、「……おはよう」と、返事を返した。
そして、僕をゆっくりと腕の中から解放して、カナエは起き上がる。
僕もカナエに習って起き上がる。すると、カナエはなぜか自分の腕を確認しはじめて、首をかしげていた。
「なにをしてるの?」
僕が問いかけるとカナエは首をかしげたまま答えた。
「ああ……、なんでシュラを抱きしめてたんだろうと思って」
「なんでって、『寒い』って言ってたから、寒かったからじゃないの?」
「……」
しばらく無言でカナエは考え込んだようだった。
「???」
僕がよくわからず首をかしげると、カナエは1つ頷いた。
「そうか。寒かったからか」
と1人で納得して奥のわき水の方へと立ち上がって移動していく。
意味がわからない……。
……もしかして、カナエって朝が弱いんだろうか? と僕は思った。
そして、その後、朝になったらカナエに抱きしめられている事が常習化することを今の僕は知らなかった。
朝の身支度が終わった後、僕たちは洞くつの入り口で向かい合って話していた。
「とりあえず、これからどうしようか、先生?」
僕が冗談めかしてカナエを先生と呼ぶと、カナエは先生と呼ばれたことをスルーして話をすすめた。
「まあ、これから用意しなきゃいけないのは、衣食住だろうな。これから、ここでひっそりと隠れ住むんだ。このままじゃ駄目だろう」
「スルーされた……」
「まあ、衣食に関しては、俺が近くの町から持っている金で調達してしばらくはどうにかできるだろう。問題は今、中途半端な住だな」
「うぅ……」
「この洞くつは、飲み水は確保出来ているが、けっして住みやすいわけじゃあない」
「――カナエが冷たい」
「真面目に聞け」
頭を軽くはたかれる。僕は渋々「はい」と、頷いた。
「でも、カナエ。お金っていいのか? カナエのお金なんだろ?」
僕が反論するようにそう言うと、カナエはため息を吐いて。
「お前、金持っているのか?」
「ううん、一銭も持ってない」
僕は首を振る。
「でも、これをお金に換えることは出来るんじゃ無いかなぁ?」と、僕の首にぶら下がっていたネックレスをカナエに渡す。
カナエは渡されたネックレスを一瞥すると僕に手渡しで返した。
「あのな。俺たちは目立つ行動は今できないんだ。そんなときにこんな上物のペンダントなんか換金した日には、目も当てられない」
僕は驚いて手の中にあるペンダントを見た。
「え、これ、そんなに高価なんだ……」
僕はしげしげとペンダントを見つめる。
「それもあるが、精霊のお前がもっているんだ。なにか大きな付加価値があってもおかしくない」
「あ……」
なるほど、そっか。これ、目が覚めてからずっと身につけてるものだから、変な効果とかあるかもしれないんだ。
僕は納得した。
「だから、しばらくは俺のもっている金を使う」
なんだか、カナエに頼りっぱなしで申し訳ない。
「――ごめん。カナエ、ありがとう」
僕はカナエにお礼を言った。
「きにするな。シュラが稼げるようになったら請求する」
「うん! その時はきっと倍にして返す!」
僕がそうカナエに宣言すると、カナエは無表情ながらすこし頬を緩ませたようだった。
……今、笑った? カナエ、笑った?
きっと、今、カナエは笑ったんだ。そう思うと僕は嬉しくなって、カナエに笑い返したのだった。
「ん……」
瞼を開くと薄暗い洞くつの天井が見えた。奥にあるわき水の湧く音が覚醒を促していく。
ああ、あの後、夜になったから、いったん眠ったんだっけ?
ゴツゴツした岩の上に横になって眠っていたせいで動かすと非常に体が痛い。
仰向けになっていた僕はとりあえずいまの体制を変えようと、ゆっくりと身を横に倒そうとしたところで驚く。
「っ!……なんだ、カナエかぁ」
正面の至近距離にカナエの顔が見えて驚いたのだ。昨日カナエの隣で眠ったことを忘れてた。
……でも、こんなに近かったっけ? そんなことをおもいつつ、寝ぼけた頭でカナエの顔を観察する。
うわ~まつげ長いなぁ。ほんと端正な顔してるし、同性ながら、感心するなぁ。
色々考えつつカナエの顔をぼんやりと見つめていると、カナエの瞼が震えた。
ゆっくりと瞼が開いていく。エメラルドグリーンの瞳が洞くつの暗がりの中輝いていた。
どうやらカナエも目を覚ましたらしい。
「……」
無言で僕たちは見つめ合う。
そしてたっぷり10秒たったころ。カナエが口を開いた。
「寒い」
そういうと、突然カナエが動き出し、僕の身を自分の方へ寄せて、抱え込むように抱きしめた。
そうなると僕の顔は自然とカナエの胸元へ移動する。
カナエは寝る前に鎧を脱いでいたので、いまはごつごつとした感触は無く、あるのは鎧の下に着ていた黒い衣服の柔らかさと、暖かな人肌の温度と、微かにかおる昨日の血の残り香、そして、命を刻む心臓の音だ。
あったかい……。
血の流れる音と心臓の独特のリズムに安心すると共に、僕の意識は急速に覚醒する。
……あれ? これってなんだかすこしおかしくない? いくら寒いって言っても、なんだか近すぎない?
――いや、僕はいろんな意味でこの世界に無知だから、よくわかんないけど。
これって、そもそもカナエ寝ぼけてる?
あ、でも、そんなことより、光が入ってきてるって事は、もう朝だから、カナエ起こさなきゃ。
僕はカナエの腕の中でそんなことを考えると、カナエに声をかけた。
「カナエ~。起きて。朝だよ~」
声をかけたタイミングからすこし遅れて、カナエは反応を示した。
ゆっくりとした動作で、かわらず無表情のカナエが腕の中の僕を確認する。
「あ、おはよ」
僕が朝の挨拶をカナエにすると、カナエは少し考えるような様子を見せて、「……おはよう」と、返事を返した。
そして、僕をゆっくりと腕の中から解放して、カナエは起き上がる。
僕もカナエに習って起き上がる。すると、カナエはなぜか自分の腕を確認しはじめて、首をかしげていた。
「なにをしてるの?」
僕が問いかけるとカナエは首をかしげたまま答えた。
「ああ……、なんでシュラを抱きしめてたんだろうと思って」
「なんでって、『寒い』って言ってたから、寒かったからじゃないの?」
「……」
しばらく無言でカナエは考え込んだようだった。
「???」
僕がよくわからず首をかしげると、カナエは1つ頷いた。
「そうか。寒かったからか」
と1人で納得して奥のわき水の方へと立ち上がって移動していく。
意味がわからない……。
……もしかして、カナエって朝が弱いんだろうか? と僕は思った。
そして、その後、朝になったらカナエに抱きしめられている事が常習化することを今の僕は知らなかった。
朝の身支度が終わった後、僕たちは洞くつの入り口で向かい合って話していた。
「とりあえず、これからどうしようか、先生?」
僕が冗談めかしてカナエを先生と呼ぶと、カナエは先生と呼ばれたことをスルーして話をすすめた。
「まあ、これから用意しなきゃいけないのは、衣食住だろうな。これから、ここでひっそりと隠れ住むんだ。このままじゃ駄目だろう」
「スルーされた……」
「まあ、衣食に関しては、俺が近くの町から持っている金で調達してしばらくはどうにかできるだろう。問題は今、中途半端な住だな」
「うぅ……」
「この洞くつは、飲み水は確保出来ているが、けっして住みやすいわけじゃあない」
「――カナエが冷たい」
「真面目に聞け」
頭を軽くはたかれる。僕は渋々「はい」と、頷いた。
「でも、カナエ。お金っていいのか? カナエのお金なんだろ?」
僕が反論するようにそう言うと、カナエはため息を吐いて。
「お前、金持っているのか?」
「ううん、一銭も持ってない」
僕は首を振る。
「でも、これをお金に換えることは出来るんじゃ無いかなぁ?」と、僕の首にぶら下がっていたネックレスをカナエに渡す。
カナエは渡されたネックレスを一瞥すると僕に手渡しで返した。
「あのな。俺たちは目立つ行動は今できないんだ。そんなときにこんな上物のペンダントなんか換金した日には、目も当てられない」
僕は驚いて手の中にあるペンダントを見た。
「え、これ、そんなに高価なんだ……」
僕はしげしげとペンダントを見つめる。
「それもあるが、精霊のお前がもっているんだ。なにか大きな付加価値があってもおかしくない」
「あ……」
なるほど、そっか。これ、目が覚めてからずっと身につけてるものだから、変な効果とかあるかもしれないんだ。
僕は納得した。
「だから、しばらくは俺のもっている金を使う」
なんだか、カナエに頼りっぱなしで申し訳ない。
「――ごめん。カナエ、ありがとう」
僕はカナエにお礼を言った。
「きにするな。シュラが稼げるようになったら請求する」
「うん! その時はきっと倍にして返す!」
僕がそうカナエに宣言すると、カナエは無表情ながらすこし頬を緩ませたようだった。
……今、笑った? カナエ、笑った?
きっと、今、カナエは笑ったんだ。そう思うと僕は嬉しくなって、カナエに笑い返したのだった。
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