【BLファンタジー】双剣の英雄 第3話
第三話 はじめまして
「……これは、おまえのものか?」
彼が僕を見て発した第一声はそんな言葉だった。
彼の手には僕の黒のコートが握られている。
僕は素直に頷いた。
「そうだよ」
「――そう、か」
彼は僕のコートに目を向けるとぼつりと呟いた。
「この場合、なんと言ったらいいんだろうな。……『ありがとう』が正しいんだろうか?」
すこし彼は途惑うように、目を彷徨わせると、こちらを見た。
「すまない。俺の置かれてた環境は少し特殊だったから、一般的にどのような反応をすればいいのか、わからないんだ」
「そうなんだ……」
そういわれても、こちらもただいま絶賛記憶喪失中だから、一般常識なんてあるはずもない。
でも、僕は彼にそう言ってもらえて嬉しかった。
だから、
「たぶん、その反応であっていると思うよ」
と、言って微笑んだのだった。
何度か洞くつを出入りして、集めた枯れ枝を積み重ねて、ふと、僕は火をつける道具を持っていない事に気が付いた。
「あ、……どうしよう。火をおこせない」
すると、彼は起き上がり、僕の隣まで来ると、『小さな灯火を与えよ トーチ』
と囁くように呪文を唱えて、小さな炎を手のひらに灯した。
そして、そっと枯れ枝のほうに炎を誘導して、枯れ枝に炎を灯した。
「ありがとう」
その様子を見ていた僕がお礼を彼に言う。すると彼は、
「たいしたことはしていない」
といって、その場に座った。
僕も彼の隣へと腰掛ける。
「ねえ、君、名前は?」
僕は彼に問う。
「……カナエ」
彼は……カナエはぽつりとこぼすように答えた。
そして、僕に問い返す。
「おまえは?」
「僕……僕は――」
そういえば僕は自分の名前すらわからないのだった。どう答えたらいいのだろうと、僕は躊躇う。
「言えない事情があるのか?」
途惑う僕にカナエは感づいたのか、そう問うてきた。
「そんなことはないんだ。ただ――」
カナエの様子はまるでなんてことの無い世話話をするようだった。
だから僕は、素直に今の状況を答えることにした。
「僕……記憶が無いんだ」
「……」
「今日の朝ぐらいかな。目が覚めたら、知らない場所にいて、僕自身のことも思い出せなくて……」
「そうか」
「草原で目が覚めたんだけど、何も思い出せなかったから、とりあえず森に向かって歩いていたんだ」
そして、今に至るまでの事情を淡々と彼に話した。
その間、彼は表情を動かすこと無く、たまに相づちを打ちながら僕の話を聞いていた。
僕が話し終わると、彼は僕の目を見て言った。
「事情はわかった。全く記憶が無いんだな。――そんな中、俺を助けてくれて、ありがとう」
彼の表情は変わらなかったけど、感謝の気持ちがまっすぐ僕に向かっているのがわかった。
僕は、どうしてだか、彼の言葉にすごく安心して。なんだか、涙が出そうになった。記憶がないせいで情緒不安定なのかもしれない。そして、――彼を、カナエを助けて良かったと心から思うことが出来た。
「あ、そうだ。火もおこす事が出来たし、君……カナエって呼んでも良いかな? 血だらけだから、身を清めてきなよ。この洞くつの奥にわき水があるんだ」
「そうなのか。ああ、その呼び方でかまわない」
「でも、沐浴はしないでね。今は非常時だし、カナエもまだ体力も完全に回復してないだろうし」
「わかった。そういえば、コートを少し汚した。すまない」
「ああ、気にしないで。黒だから少しぐらいわかんないと思うし」
頭から血をかぶったようなカナエに、僕は身を清める事を勧めると僕自身はたき火の番をすることにした。
しばらくすると、カナエが帰ってきた。
そして、帰ってきたカナエに驚いた。
なんというか。あからさまに彼は美少年なのだ。
血で黒く固まっていた髪は、本来の色を取り戻して、柔らかそうな短い麻の髪に。シャープな頬の輪郭と新緑の切れ長の目が涼しげだ。耳には小さな赤い宝石のようなピアスをしている。
一見ほっそりとした体は、よく見るとかなりしっかりしていて、しなやかな野生の狼のような印象を受けた。
なんというか……羨ましいほど格好いい。
そして、身につけていた鎧も布で拭いたのか、白銀に輝いている。
まるで物語に出てくる聖騎士様を幼くしたかのような出で立ちに、僕はぽかんと空いた口が塞がらなかった。
「どうした?」
カナエが僕に問う。
「イヤ、ナンデモナイ」
微かに男としてのジェラシーを感じずにはいられなかったのは、仕方が無いのかも知れない。
「?」
一方、僕の容姿は、未だに確認していないが、さすがにカナエレベルの容姿は期待できないだろう。
僕は自分の髪の色を引っ張って確認する。黒か……。
カナエは僕の奇行を不思議に思ったのだろう。
「なにをしてるんだ?」
と聞いてきた。
「何って、まだ、自分の顔とか髪とか確認してなかったから、確認しているんだよ」
「ああ、なるほど」
カナエは僕の隣に遠慮無く腰掛けると僕の顔を見た。
「髪は、夜の色みたいな黒だな。あと、短いが毛先が長い。瞳は赤だ。すこし珍しい色合いかも知れない。あと肌は色白とまではいかないが、……普通より白いな」
たたみかけるようにカナエは僕に告げるとなおも僕を観察する。
「顔立ちは……整っているんじゃないか? ただ、目立つタイプじゃないな。体つきはひょろいわけじゃないが細いな」
そこまで言うとカナエは、頷いた。
「以上が、おまえの見た目だ」
そこまで細かく観察して言われると、急に僕は気恥ずかしくなってきた。
自分で気になっていたことだが、他人から言われるとなんだかもどかしい。
「あ、アリガトウ……」
言葉がおもわず、片言になるのも仕方なかった。
「……これは、おまえのものか?」
彼が僕を見て発した第一声はそんな言葉だった。
彼の手には僕の黒のコートが握られている。
僕は素直に頷いた。
「そうだよ」
「――そう、か」
彼は僕のコートに目を向けるとぼつりと呟いた。
「この場合、なんと言ったらいいんだろうな。……『ありがとう』が正しいんだろうか?」
すこし彼は途惑うように、目を彷徨わせると、こちらを見た。
「すまない。俺の置かれてた環境は少し特殊だったから、一般的にどのような反応をすればいいのか、わからないんだ」
「そうなんだ……」
そういわれても、こちらもただいま絶賛記憶喪失中だから、一般常識なんてあるはずもない。
でも、僕は彼にそう言ってもらえて嬉しかった。
だから、
「たぶん、その反応であっていると思うよ」
と、言って微笑んだのだった。
何度か洞くつを出入りして、集めた枯れ枝を積み重ねて、ふと、僕は火をつける道具を持っていない事に気が付いた。
「あ、……どうしよう。火をおこせない」
すると、彼は起き上がり、僕の隣まで来ると、『小さな灯火を与えよ トーチ』
と囁くように呪文を唱えて、小さな炎を手のひらに灯した。
そして、そっと枯れ枝のほうに炎を誘導して、枯れ枝に炎を灯した。
「ありがとう」
その様子を見ていた僕がお礼を彼に言う。すると彼は、
「たいしたことはしていない」
といって、その場に座った。
僕も彼の隣へと腰掛ける。
「ねえ、君、名前は?」
僕は彼に問う。
「……カナエ」
彼は……カナエはぽつりとこぼすように答えた。
そして、僕に問い返す。
「おまえは?」
「僕……僕は――」
そういえば僕は自分の名前すらわからないのだった。どう答えたらいいのだろうと、僕は躊躇う。
「言えない事情があるのか?」
途惑う僕にカナエは感づいたのか、そう問うてきた。
「そんなことはないんだ。ただ――」
カナエの様子はまるでなんてことの無い世話話をするようだった。
だから僕は、素直に今の状況を答えることにした。
「僕……記憶が無いんだ」
「……」
「今日の朝ぐらいかな。目が覚めたら、知らない場所にいて、僕自身のことも思い出せなくて……」
「そうか」
「草原で目が覚めたんだけど、何も思い出せなかったから、とりあえず森に向かって歩いていたんだ」
そして、今に至るまでの事情を淡々と彼に話した。
その間、彼は表情を動かすこと無く、たまに相づちを打ちながら僕の話を聞いていた。
僕が話し終わると、彼は僕の目を見て言った。
「事情はわかった。全く記憶が無いんだな。――そんな中、俺を助けてくれて、ありがとう」
彼の表情は変わらなかったけど、感謝の気持ちがまっすぐ僕に向かっているのがわかった。
僕は、どうしてだか、彼の言葉にすごく安心して。なんだか、涙が出そうになった。記憶がないせいで情緒不安定なのかもしれない。そして、――彼を、カナエを助けて良かったと心から思うことが出来た。
「あ、そうだ。火もおこす事が出来たし、君……カナエって呼んでも良いかな? 血だらけだから、身を清めてきなよ。この洞くつの奥にわき水があるんだ」
「そうなのか。ああ、その呼び方でかまわない」
「でも、沐浴はしないでね。今は非常時だし、カナエもまだ体力も完全に回復してないだろうし」
「わかった。そういえば、コートを少し汚した。すまない」
「ああ、気にしないで。黒だから少しぐらいわかんないと思うし」
頭から血をかぶったようなカナエに、僕は身を清める事を勧めると僕自身はたき火の番をすることにした。
しばらくすると、カナエが帰ってきた。
そして、帰ってきたカナエに驚いた。
なんというか。あからさまに彼は美少年なのだ。
血で黒く固まっていた髪は、本来の色を取り戻して、柔らかそうな短い麻の髪に。シャープな頬の輪郭と新緑の切れ長の目が涼しげだ。耳には小さな赤い宝石のようなピアスをしている。
一見ほっそりとした体は、よく見るとかなりしっかりしていて、しなやかな野生の狼のような印象を受けた。
なんというか……羨ましいほど格好いい。
そして、身につけていた鎧も布で拭いたのか、白銀に輝いている。
まるで物語に出てくる聖騎士様を幼くしたかのような出で立ちに、僕はぽかんと空いた口が塞がらなかった。
「どうした?」
カナエが僕に問う。
「イヤ、ナンデモナイ」
微かに男としてのジェラシーを感じずにはいられなかったのは、仕方が無いのかも知れない。
「?」
一方、僕の容姿は、未だに確認していないが、さすがにカナエレベルの容姿は期待できないだろう。
僕は自分の髪の色を引っ張って確認する。黒か……。
カナエは僕の奇行を不思議に思ったのだろう。
「なにをしてるんだ?」
と聞いてきた。
「何って、まだ、自分の顔とか髪とか確認してなかったから、確認しているんだよ」
「ああ、なるほど」
カナエは僕の隣に遠慮無く腰掛けると僕の顔を見た。
「髪は、夜の色みたいな黒だな。あと、短いが毛先が長い。瞳は赤だ。すこし珍しい色合いかも知れない。あと肌は色白とまではいかないが、……普通より白いな」
たたみかけるようにカナエは僕に告げるとなおも僕を観察する。
「顔立ちは……整っているんじゃないか? ただ、目立つタイプじゃないな。体つきはひょろいわけじゃないが細いな」
そこまで言うとカナエは、頷いた。
「以上が、おまえの見た目だ」
そこまで細かく観察して言われると、急に僕は気恥ずかしくなってきた。
自分で気になっていたことだが、他人から言われるとなんだかもどかしい。
「あ、アリガトウ……」
言葉がおもわず、片言になるのも仕方なかった。