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水底のソフィア

オリジナルファンタジーBL小説を連載中です。主人公受けです。

【BLファンタジー】双剣の英雄 第9話

 第9話 不器用な夜

 木作りのドアが静かに閉まる音がして、ふいに正気に戻った僕の目に映ったのは、窓から差し込む傾き始めた太陽の光だ。
 部屋は少々薄暗く、窓を彩るように緑のカーテンがカーテンレールにつるされている。扉から正面には、大人2人が一緒に寝転んでも平気だろうと思えるベッドが1つ、ベッドサイドには小さな机が1つ、そこには夜の明かりにするのだろう、小さな燭台と蝋燭があった。
 広くも無く狭くも無い室内は、窓が閉まっているせいかすこし閉塞感を感じられる。
 すると、部屋を観察する僕の隣からカナエがベッド際の窓のほうへと向かい、窓を開けはじめた。窓が開くとそこから草の香りと土の香りが風に乗って僕の髪を揺らす。
 と、そこでやっと僕の羞恥心が収まってきたと共に、また好奇心が復活し、僕は忙しなく視線を動かして、周囲を観察しながら、気がついたことをカナエに報告した。
「カナエ、ベッドひとつしか無いけど……」
「ダブルだからな」
「さっきの女の人も言ってたけど、ダブル?」
「ダブルベッド。シングルベッド2部屋より、ダブル1部屋の方が経費が安かったから、そうした」
「あー……」
 僕はなるほどと納得した。カナエは慣れた様子で、部屋の備品を確認している。
「今夜は一緒に寝ることになるが、まあ、別に問題ないだろう?」
「まあ、たしかに……節約になるんだったらいいかぁ」
 僕がそう言うと、カナエはこれからの予定を話し始めた。
「今日は、とりあえず、俺もこの宿に泊まる。今、目を離したら、とんでもない事になりそうだからな」
「そんなことは――」
「おまえ、俺がいなくても、余計なことは言わないか?」
「うっ……」
 カナエは僕がまだ、他の人と話すことに自信がないことを気づいているらしい。『1人で大丈夫』と言えない僕の、痛い所を突いてくる。
「わかったよ」
 僕が了承すると、カナエは備品を確認する手を止めて、ベッドに向かい腰をかけた。
 僕もカナエの傍に座る。
「とりあえず、今日はこの宿屋で必要になる一通りの事を教える。明日は、俺が町で必要なものを調達してくるから、シュラはここで待機だ」
「ん、わかった」
 僕は頷くと、不意に気になっていた事が口にでた。
「――そういえば、さっき女の人が言ってたけど、カナエって騎士だったの? 月読会って言ってたけど」
「……ああ、その話か。厳密に言うと、月読会にいる騎士と呼ばれている者は本当の騎士じゃ無い。貴族じゃないからな……。どちらかというと私設傭兵団に近い。が、まあやっていることは騎士に似ているから、よく騎士様と言われるが。さっきの女性は俺の鎧を見て判断したんだろう。月読会の戦う者はこの鎧と同じデザインの鎧を着用している事が多い」
 カナエの白銀の鎧は、月読会の戦士の象徴なのだという。
 なるほど、それでさっきの女性はカナエを騎士様ってよんだのか。僕は納得した。
「あと、月読会って?」
「月神を信仰している拝一神教で、月神の奇跡と教えを信奉している団体だ。ここ200年で爆発的に広まった比較的新しい宗教なんだが、大陸全土にわたって信者が多い」
 カナエはそう答えると目を伏せる。その表情は相変わらず無表情で僕にはカナエの感情が読めなかった。
 そういえば、カナエのこと何も聞いてない……。カナエは帰る場所がないと言っていたけれど、月読会の人間なら、本来帰るべき場所があるんじゃないのだろうか? もしかして、僕のことを気にして、帰る場所がないと言ったんだろうか?
 それならば、これだけは聞かなければならないだろうと、意を決して僕は口を開く。
「カナエは、さ。……帰らなくていいの? その、月読会に」
「……」
「僕にはよくわからないけど、仲間とか、家族とか、待っている人がいるんじゃないの?」
 僕はカナエを見つめて言った。カナエが僕の方をゆっくりと見る。その目はひどく無機質でまるでガラスのようだった。カナエの感情が読めない。そっと、カナエの手が僕の頬に添えられる。自然とカナエを正面から見つめる形になった。
 僕はどこかにカナエの感情がないか探す。けれど、エメラルドグリーンの瞳は何も答えることはなかった。
「……シュラは、なにも気にしなくていい」
 カナエはぽつりと呟く。僕はなんだかカナエに拒絶された気分になった。まるで、聞いてはいけないことを聞いてしまったような……。
「カナ――」
 僕がカナエの名を呼ぼうとしたその時だった。
 軽いノックの音と共に扉の向こうから女性の声が聞こえた。
「こんにちは。湯をお持ちしました。」
 カナエは僕の頬から手を離すと、扉の方へと向かって歩いて行った。
 カナエの手の温かさとはうらはらに、まるで作り物のような無感情な瞳を思い出すと、僕はもう何も言えなかった。

 その後、僕とカナエは交代で身を清めたり、食堂にてカナエに簡単な食事の作法とかを教わったりしたが、僕はなんだか先ほどのカナエとのやりとりから、始終上の空だった。けれど、カナエは何も言わずにいつもの無表情のままで話している。
 なんだろう。この寄る辺のない気持ちはと僕は思う。――この気持ちに名前をつけるとしたら、不安と言うのかも知れない。
 そんなことを考えているうちに、夜になって、ふたりで同じベッドにはいって、僕は窓から見える星を数えながら寝転がっていると、カナエがぽつりと呟いた。
「寒い」
 そういうと、体を僕の方へ寄せ、腕を伸ばし、まるで壊れ物を扱うように僕を抱きしめた。すると自然と距離が近くなって、カナエと向き合う体制になる。どうしてか縋られているようだと思った。
「寒いの?」
 伏せられた麻色のまつげを見つめて尋ねると。
「ああ、寒い」
 とカナエは答えた。
 今、僕たちがいるところは気温の低い洞くつじゃない。僕からしたら、ほどほどに暖かい場所でも、カナエは『寒い』という。
 それはどういう意味を持っているのだろう? と、僕は思った。
「今は?」
 僕は尋ねるとカナエは少し困った顔をした、――ような気がした。相変わらず無表情で何を考えているのか読みにくい。
「シュラを抱きしめると、暖かい気がする。それから、……そうだな。安心する気がする」
 『気がする』、ねぇ……。
 そっと、僕はカナエに寄り添い、腕をカナエの胸にそえる。
 それで、すこしカナエの『寒さ』が消える『気がする』なら、安いもんだと思う。
「さっき、ずいぶんと上の空だった」
 すこし、責められている気がするのは気のせいだろう。たぶん。
「うん……すこし、考え事してた」
「そうか」
 ふっとカナエは息を吐き、目を閉じた。
「ね。僕もさっきすこし『寒い』感じがしたけど。今は『暖かい』よ」
 そして、僕も瞼を下ろし、眠りにつくことにした。
 カナエの僕の抱く腕にすこし力がはいった気がした。

 次の日、カナエは町に行くといい、僕は半日宿駅に1人で待機することになった。
 宿屋の入り口で、僕はカナエを見送る。
「では、俺は町に必要な物を買いに行く。シュラ、くれぐれも目立つなよ」
「わかってるって」
 もうすっかり、僕もいつもの調子だ。
 昨日の夜で、僕の上の空は解決したようだ。一度、眠ったこともよかったのかもしれない。
「じゃ、いってらっしゃい」
「ああ」
 そういうとカナエは町へと出発した。
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【BLファンタジー】双剣の英雄 第8話

第8話 はじめての宿駅

「わぁ……。ここが宿駅かぁ」
 僕は中規模の広場の真ん中で感心したように呟いた。
 目の前には僕の等身大ぐらいの透明な鉱石が美しくカットされ設置されている。そのクリスタルを中心にした広場の周囲には3軒の比較的大きいと思われる木造の建物が囲むように立ち並んでいた。靴底で踏みしめたのは、カラフルなモザイクのタイル。タイルは規則的な模様を作り、広場を埋め尽くしている。
 僕はドキドキしながら、周囲を見渡し。知的好奇心を満たす。
 なにしろ、なにもかもが物珍しく感じて仕方ないのだ。多少は気分が高揚してしまうのは仕方ないと思ってほしい。
 そして、僕が一番興味を持ったのは、やはり、まばらに行き交う人々。
 草原を裸にして土をならした街道に沿って、人がぽつりぽつりと歩いているのが見える。時折馬車の姿も見えたりして、僕は興味深いと視線を忙しなく動かしていた。
 実は、遠目でカナエ以外の人を初めて見た時に、僕は興奮気味にはやく街道に行こうとカナエを引っ張り、カナエに「落ち着け、目立たないようにするんだろう?」と注意された為、現在は視線を動かすだけにとどめているが、やはり、高揚する気分は隠せなかった。
「カナエ……! この綺麗な大きな鉱石って何?」
 先ほどから僕は食いつくように、カナエに質問しっぱなしだ。
 カナエも僕が興奮するのは仕方ないと思ったのか、最初は注意していたものの、今はもう何も言わず、隣で僕の質問に答えてくれる。今は広場の中央の目立つ鉱石を指さして、僕はカナエの服の袖口を引っ張っていた。
「……これは結界石だ。一定距離、――そうだな、この宿駅を覆うくらいの範囲を透明な壁のようなものを作り出して、人にとって無害なものしか通さないように出来ている。簡単に言うとモンスターを追い払う効果をもっていると言えばいいか」
「わあ、そんなすごいものなんだ」
「まあ、宿駅や町、村には必ず1つは設置されているものだな。珍しいものでは無いけれど拠点を作るには重要なものだ。だが、最近は結界石を生成出来る人材が減ってきているのが問題になってる」
「へ~、綺麗なだけじゃないんだ」
 じいっと鉱石を見つめ、観察していたが、途中でカナエに声をかけられる。
「そろそろ行くぞ。目立つ」
 と、素っ気なく言って、僕の手を握って3軒ある建物の1つに向かって僕を引っ張って歩いた。
 すこし強引な方法に僕は足をとられそうになりながらもついて行く。
「どこにいくの?」
「宿屋へいく」

 カナエに引きずられるように連れてこられたのは、木造の赤い塗料で塗られたレンガ屋根の建物だった。
 3軒ある建物の中で一番大きいんじゃ無いだろうか? なかなか大きな建物特有の重さのある趣の建物だと思う。
 看板には文字で夕暮れの草原亭と書かれている。
 あ、今気が付いたけど、僕、生まれたばかりなのに文字がわかるんだと目をすこし見開いた。
 どういう原理かわからないけれど、精霊にはある一定の知識がそなわるんだろうか?と疑問に思いつつ、カナエと連れだって宿屋の中に入った。
 中は質素だが落ち着いていて清潔、窓際には可憐な花が花びんに生けられている。
 正面にはすこし古ぼけたカウンターがあり、すこし小太りな40代くらいの女性が忙しそうにカウンターの傍を掃除をしていた。
 軽やかなドアベルが鳴り、扉が閉まると女性はカナエと僕に気が付いたのか、顔をこちらに向けた。
「あら、いらっしゃい、泊まりかい?」
 女性はそう言うといったん掃除道具を置いて、カウンターと歩み寄る。
「1泊……いや、2泊だな。2人、食事と湯を付けて宿泊したい」
 カナエは淡々と話を進めると、女性はカナエと僕に目を向けて好意的に微笑んだ。
 女性は頷くと黒板のような小さな板にチョークらしきもので何かを書き込んでいく。
「2人だね。……ベッドはシングル2つでいいかい?」
「かまわない」
 カナエと女性はどんどん話をすすめる。
 話によると、食事はカウンター右に食堂があり、朝と夕に食事を提供しているらしい。
 湯はそのままの意味で、たらいに一杯分の身を清めるためのお湯を1日1回部屋まで運んでくれるらしい。
「それにしても、ずいぶん立派な身なりだこと。商家の坊ちゃんかい? 護衛に月読会の騎士様なんて、豪勢だねぇ」
 ニコニコと快活に女性は笑う。
 ……月読会? またよくわからない単語だ。
 騎士はなんとなくわかる。――っていうか、カナエって騎士だったんだ。知らなかった。
 疑問を今すぐカナエにぶつけたい。が、僕は何も言わずに曖昧に微笑んだ。こういう時、喋るとなんだか墓穴を掘るような気がする。
 カナエは表情を変えず、こちらを見ていたが、なんだか「目立つな」と言われている気がした。……わかってるよ。
 何も言わずただ微笑むだけの僕に女性は、勝手に勘違いしたようだ。
「ああ!……なるほど、お忍びかい」と、言うと、流れるような慣れた手つきで鍵をカナエに差し出した。すると、女性はなにかに気づいたように微笑ましそうに笑った。
「あらあら、仲がいいねぇ」
 僕はなぜそんなことを言われたのかと目を瞬かせる。そして、女性の視線が僕とカナエの丁度間くらいにあるのに気が付いた。
 あ、カナエと手をつないだままだった……。
「それだけ仲がいいなら、いっそダブルにしたほうが安くつくよ。騎士様」
 僕はなんだかとても恥ずかしいことを指摘された気がして、赤面する。
 体温が上昇して顔が熱くなったことを自覚して、さらに恥ずかしくなった。
 カナエは相変わらず無表情で「俺はどちらでもいい」と、答え、こちらを見て「どうする?」と言った。
 知らないよ! 大体、ダブルってなんのことだよ!!?
 と内心叫びつつ、必死に何も言わずに口をつぐんだ。
 そして……。
 気が付いたら、広めなベッド1つが置いてある部屋にカナエにエスコート??されていた。
 僕は恥ずかしさのあまり、カナエと女性とのやりとりはそれ以降覚えてない。
 とりあえず、部屋に入ったとたんに僕の正気が戻ったことは確かだった。

【BLファンタジー】双剣の英雄 第7話

 第7話 これからのこと

「そういえば、この洞くつは森のどの辺にあることになるんだ? 町に行かないと話にならないんだが……」
「あ、たしか、僕はまっすぐ歩いて来たつもりだから、洞くつから見て正面に歩けば、森から出られると思う」
 カナエに問われて、そう言った僕は不意に、目覚めてしばらくしてから見た凄惨な光景を思い出した。
 何度も、執拗にまで倒れ伏した人を突き刺される凶器と、狂った感情がにじみ出していた顔をした男の顔を思い浮かべる。
「どうかしたのか?」
「あ、……うん」
 1日経っているけれど、もしかしたらあの男と遭遇するかも知れないと思うと不安だった。
 それに……森の中で倒れていたカナエは、あの惨劇と関係あるのだろうか?
 カナエは急に顔色が変わった僕を見つめていた。
 僕はすこし躊躇いがちに事情を話し始めた。
「カナエに会う少し前に草原の方で、誰かを襲っている男を数人見かけたんだ。その誰かはもう多分亡くなっていたと思う。でも、その男達はまるで……遊んでるかのように槍で何度も亡くなった人を突き刺していたんだ」
「……」
 カナエはしばらく無言で目を少し伏せた。
 そして小さな声で、「そうか」とだけ呟いた。
 カナエが何を考えているかわからないけど、なにかを思っていたのはわかった。
 僕はあの男達とカナエに何か関係があるのか気になったけれど、結局、カナエに問うことはできなかった。


 その後、僕とカナエは連れだって森の入り口に向かって歩き、途中目印をつけながら歩いて行った。
 そして太陽がほんの少しだけ傾くほど歩くと、森が開けてくるのがわかりそしてついに草原へとたどり着いた。
 心配した男達のことは、見る影もない。僕はこっそり安堵するようにため息を吐いた。
 周囲を見渡しカナエはぽつりと呟く。
「なるほど、このあたりか」
 カナエにはこのあたりの地域がどうなっているのかわかるらしい。検討がついたように呟いた。
「なら、ここから右の方角に行くと街道に出るな。宿駅も近くにある。町はデータクリスタルがなければ入れないが、宿駅なら……」
 カナエはしばらく考え込んでいるようだった。僕はカナエに質問する。
「カナエ、宿駅ってなに?」
「街道沿いにある、主に旅人が利用する、宿屋と酒場を兼ねた施設だ。貸し馬屋もある。この近くにある町は中規模だが、交通量は多いからな。この近くの街道には宿駅が比較的多く点在しているんだ」
 カナエはそう答えると、僕を見た。
「シュラ、ひとつ相談なんだが」
「なに?」
「一度宿駅を利用して町に行きたい。判断はおまえに任せる」
「どういうこと?」
「ようするに、俺が町に行っている間、シュラには宿駅で待機してもらいたい。この森は特殊でモンスターが少ないが、遭遇しないとは言い切れない。だからあの洞くつにお前一人を置いていくのは危険だとおれは思う。だから、安全な宿駅で待っていてもらいたいんだ」
「モンスター?」
「……そこからか」
 カナエは表情を変えなかったが、大いに呆れたようなため息をはいた。
 僕はその様子にムッとする。……仕方が無いじゃないか。生まれたばかりなんだから。
 カナエは僕を一瞥する森の方を見て、説明し始める。
「モンスターは、この世界における、人を襲う、もしくは害を与える動植物の総称だ。中には肉食で人を食べる種族や、繁殖のための苗床にする種族もいる、非常に危険な存在なんだ」
「ふむ……」
「ステータスを見てると、シュラはそこらへんの魔物じゃ相手にならないほど強い。……が、おまえは戦い方を知らないうえに武器も持ってない。一人でいるには危険だ。だから、安全のために宿駅を利用したいんだ」
 なるほど。と僕は納得した。
「カナエがそのほうがいいと思うなら、僕はなにも言うことが無いよ。だって、僕、生まれたばかりで右も左もわかんないんだ。だからカナエの方針に従うよ」
 僕がそういうとカナエは「わかった」と頷く。
 そうなると、宿駅ってどんなところか気になってきた。僕の好奇心が膨らんでいくのがわかる。
「ね」
「なんだ?」
「宿駅ってどんなところ?」
「そうだな……これから行くところはごく一般的な宿駅だ。別段変わっている所なんてないところだが、突然どうしたんだ?」
 カナエは首をかしげて聞いてきた。
 僕は素直に今の気持ちを伝える。
「ん? 楽しみだなって思って」
 ――そう、『いつだって』未知のものは楽しい。
 僕はそう思い、へらりと笑ってそう言うと、カナエは無表情のまま、「……――変なヤツ」と答えた。

【BLファンタジー】双剣の英雄 第6話

 第6話 朝のひととき

「ん……」
 瞼を開くと薄暗い洞くつの天井が見えた。奥にあるわき水の湧く音が覚醒を促していく。
 ああ、あの後、夜になったから、いったん眠ったんだっけ?
 ゴツゴツした岩の上に横になって眠っていたせいで動かすと非常に体が痛い。
 仰向けになっていた僕はとりあえずいまの体制を変えようと、ゆっくりと身を横に倒そうとしたところで驚く。
「っ!……なんだ、カナエかぁ」
 正面の至近距離にカナエの顔が見えて驚いたのだ。昨日カナエの隣で眠ったことを忘れてた。
 ……でも、こんなに近かったっけ? そんなことをおもいつつ、寝ぼけた頭でカナエの顔を観察する。
 うわ~まつげ長いなぁ。ほんと端正な顔してるし、同性ながら、感心するなぁ。
 色々考えつつカナエの顔をぼんやりと見つめていると、カナエの瞼が震えた。
 ゆっくりと瞼が開いていく。エメラルドグリーンの瞳が洞くつの暗がりの中輝いていた。
 どうやらカナエも目を覚ましたらしい。
「……」
 無言で僕たちは見つめ合う。
 そしてたっぷり10秒たったころ。カナエが口を開いた。
「寒い」
 そういうと、突然カナエが動き出し、僕の身を自分の方へ寄せて、抱え込むように抱きしめた。
 そうなると僕の顔は自然とカナエの胸元へ移動する。
 カナエは寝る前に鎧を脱いでいたので、いまはごつごつとした感触は無く、あるのは鎧の下に着ていた黒い衣服の柔らかさと、暖かな人肌の温度と、微かにかおる昨日の血の残り香、そして、命を刻む心臓の音だ。
 あったかい……。
 血の流れる音と心臓の独特のリズムに安心すると共に、僕の意識は急速に覚醒する。
 ……あれ? これってなんだかすこしおかしくない? いくら寒いって言っても、なんだか近すぎない?
 ――いや、僕はいろんな意味でこの世界に無知だから、よくわかんないけど。
 これって、そもそもカナエ寝ぼけてる?
 あ、でも、そんなことより、光が入ってきてるって事は、もう朝だから、カナエ起こさなきゃ。
 僕はカナエの腕の中でそんなことを考えると、カナエに声をかけた。
「カナエ~。起きて。朝だよ~」
 声をかけたタイミングからすこし遅れて、カナエは反応を示した。
 ゆっくりとした動作で、かわらず無表情のカナエが腕の中の僕を確認する。
「あ、おはよ」
 僕が朝の挨拶をカナエにすると、カナエは少し考えるような様子を見せて、「……おはよう」と、返事を返した。
 そして、僕をゆっくりと腕の中から解放して、カナエは起き上がる。
 僕もカナエに習って起き上がる。すると、カナエはなぜか自分の腕を確認しはじめて、首をかしげていた。
「なにをしてるの?」
 僕が問いかけるとカナエは首をかしげたまま答えた。
「ああ……、なんでシュラを抱きしめてたんだろうと思って」
「なんでって、『寒い』って言ってたから、寒かったからじゃないの?」
「……」
 しばらく無言でカナエは考え込んだようだった。
「???」
 僕がよくわからず首をかしげると、カナエは1つ頷いた。
「そうか。寒かったからか」
 と1人で納得して奥のわき水の方へと立ち上がって移動していく。
 意味がわからない……。
 ……もしかして、カナエって朝が弱いんだろうか? と僕は思った。
 そして、その後、朝になったらカナエに抱きしめられている事が常習化することを今の僕は知らなかった。



 朝の身支度が終わった後、僕たちは洞くつの入り口で向かい合って話していた。
「とりあえず、これからどうしようか、先生?」
 僕が冗談めかしてカナエを先生と呼ぶと、カナエは先生と呼ばれたことをスルーして話をすすめた。
「まあ、これから用意しなきゃいけないのは、衣食住だろうな。これから、ここでひっそりと隠れ住むんだ。このままじゃ駄目だろう」
「スルーされた……」
「まあ、衣食に関しては、俺が近くの町から持っている金で調達してしばらくはどうにかできるだろう。問題は今、中途半端な住だな」
「うぅ……」
「この洞くつは、飲み水は確保出来ているが、けっして住みやすいわけじゃあない」
「――カナエが冷たい」
「真面目に聞け」
 頭を軽くはたかれる。僕は渋々「はい」と、頷いた。
「でも、カナエ。お金っていいのか? カナエのお金なんだろ?」
 僕が反論するようにそう言うと、カナエはため息を吐いて。
「お前、金持っているのか?」
「ううん、一銭も持ってない」
 僕は首を振る。
「でも、これをお金に換えることは出来るんじゃ無いかなぁ?」と、僕の首にぶら下がっていたネックレスをカナエに渡す。
 カナエは渡されたネックレスを一瞥すると僕に手渡しで返した。
「あのな。俺たちは目立つ行動は今できないんだ。そんなときにこんな上物のペンダントなんか換金した日には、目も当てられない」
 僕は驚いて手の中にあるペンダントを見た。
「え、これ、そんなに高価なんだ……」
 僕はしげしげとペンダントを見つめる。
「それもあるが、精霊のお前がもっているんだ。なにか大きな付加価値があってもおかしくない」
「あ……」
 なるほど、そっか。これ、目が覚めてからずっと身につけてるものだから、変な効果とかあるかもしれないんだ。
 僕は納得した。
「だから、しばらくは俺のもっている金を使う」
 なんだか、カナエに頼りっぱなしで申し訳ない。
「――ごめん。カナエ、ありがとう」
 僕はカナエにお礼を言った。
「きにするな。シュラが稼げるようになったら請求する」
「うん! その時はきっと倍にして返す!」
 僕がそうカナエに宣言すると、カナエは無表情ながらすこし頬を緩ませたようだった。
 ……今、笑った? カナエ、笑った?
 きっと、今、カナエは笑ったんだ。そう思うと僕は嬉しくなって、カナエに笑い返したのだった。

【BLファンタジー】双剣の英雄 幕間1

 幕間1 夢

 それは遠い昔。
 高慢な一部の人間が、神をも恐れぬ禁忌を犯し、世界を病に冒しました。
 世界は闇に飲み込まれ、最果ての地から少しずつ削られていくように、壊れていきました。
 だれもが、諦め、絶望に陥った時、一部の心に希望を持ち続けた人々が、立ち上がりました。
 世の人は希望持つ人を英雄と称え、世界を危機に立ち上がった英雄たちは、世界を救い、世に光を取り戻しました。
 英雄たちはその後、幸せな一生をおくりました。
 それこそ絵に描いたハッピーエンドのように。


 絵に描いたハッピーエンド。 
 それは――ほんとうに??


 だれかが泣いている声がする。
 体が重たい。体が冷えていく。
 痛い。痛い。痛い。
 呻くような悲鳴を上げる。けれども次第に、痛みも遠ざかっていく。
 泣かないで。と、誰かに告げたかった。
 けれども、血の味に溺れて、声にならなかった。